我々が働く電気設備工事産業は、社会基盤として欠かすことのできない電気設備の構築や保守を担っており、そこに働く労働者は、これまで培った高い技術と技能、さらには強い社会的使命によって産業の発展に大きな役割を果たしてきました。
一方、受注産業・請負業としての特性から、景気動向により設備投資が大きく影響を受けるだけでなく、行き過ぎた市場原理主義の浸透によって過度な価格競争を余儀なくされ、さらには客先からの評価を高めるために過度な工期短縮にも応えざるを得ないなど、常に厳しい環境にさらされています。
そのような状況の中、労働者は仕事を通じて社会的貢献を果たしているにもかかわらず、一般的には社会からの認知度は低く、「長すぎる労働時間」を始めとするさまざまな課題を抱えている状況にあります。このことは、産業の魅力を低下させる要因のひとつであり、将来にわたった技術・技能の継承に不安が生じるなど、電気設備工事産業の未来に影を落としています。
全電工労連では、我々の産業が抱える諸課題について体系的に抽出を行い、社会や関係諸団体に向けて発信するとともに、友好団体等と課題の共有化を図ることで課題解決への一歩を 踏み出したいと考えています。
ゆとり・豊かさの実現と
魅力ある産業を目指して
全電工労連は、電気設備工事関連の労働組合を中心に構成し、上部団体や系列組織を超越した横断的で緩やかな組織として、共通課題の取り組みの推進に努めています。また、山積する電気設備工事産業の諸課題を克服するため、今日までの取り組みの実績や経験を大事にするとともに、期待される活動の展開に努力しています。そして、電気設備工事産業に働く者の社会的・経済的地位の向上と産業の近代化・魅力化を図るため、政策の確立や意見提言に努め、建設産業労働組合懇話会(略称:建設産労懇)に参画し、建設産業の諸課題の改善に向けて取り組んでいます。
建設業の労働災害の発生率は、戦後におけるこれまでの官民挙げて取り組んできた成果により大幅に低下はしているものの、死亡災害の発生件数については、他産業と比較して依然高い水準にあり、労災保険料の保険料率が高いことにもその実態が表れています。
建設業では、取り巻く厳しい情勢から業界内で激しい受注競争が展開されており、労働災害の発生状況を見ると、一部の現場では原価低減を優先するあまり本来確保すべき安全対策費用までも圧縮せざるを得ない状況が懸念されます。
その結果、近年の電気設備工事産業における労働災害の発生状況は、大手企業の労働者が被災するよりも重層下請構造の中で中小企業の労働者が被災する労働災害が依然高止まりの傾向にあります。中小企業が安全に関する施策に資本投資できるよう、請負契約内容の改善も含めた建設業全体の環境整備が必要であると考えます。
さらに、工程のしわ寄せなどにより予定外の業務が発生し、施工管理が十分でない状況で作業に着手したことによる災害の発生も見受けられることから、安全に対する意識改革が建設業全体の課題であると考えます。
現代社会において、“電気“のない状況”が社会生活に甚大な影響を及ぼすということは、東日本大震災や過去の震災・災害からも明らかです。電気設備工事産業はその“電気”を「造る」・「運ぶ」・「使う」という全ての過程に関わる設備の構築およびメンテナンスを担っている産業であり、あらゆる社会資本や国民生活、経済活動までを根底から支えている重要な産業であると言えます。
電気設備工事産業に働く全ての労働者は、その社会的役割に責任と誇りを持ち、低廉な価格で品質の高い施工を行うことが社会からの要請と理解し、広く社会貢献できる事を働きがいに感じながら日々の業務に精励しています。しかし、残念ながらこの産業に対する社会的な認知度は決して高いとは言えない状況が、優秀な人材の確保を困難にしており、あわせて他産業への人材流出により技術・技能の継承に支障が出ています。
電気設備工事産業の永続的な発展のためには、若い世代が仕事を通じて自らが将来成長できる可能性を見出し、意欲を持って挑戦できる環境づくりが重要であると考えます。そのためには、電気設備工事産業が社会的に重要な役割を担っていることを教育現場や社会に対してより一層アピールしていくことが重要です。また、役割・責任にふさわしい賃金も含めた労働条件を確保するとともに、短年度の業績に惑わされない継続的な人材確保に業界を挙げて取り組むこと、さらには技術・技能向上のための資本投資の推進、長すぎる労働時間の解消などが求められていると考えます。
公共工事については、すでにガイドラインで時間外労働の上限規制の適用に向けた取り組みとして、建設工事従事者の休日や BIM/CIM活用等による準備期間と現場後片付け期間の設定、降雨や降雪、取水期間等の作業日数などを算定し、適正な工期を設定することが示されています。あわせて、このガイドラインは、民間も含め全ての建設工事において働き方改革に向けた生産性の向上や適正な工期設定等が行われることを目的として制定されました。
しかし、民間工事について強制的に制限するものでもなく、内容の周知と理解・協力を求めるものにとどまり、実態は発注者からの強い要請により短い工期を求められています。土曜日はもちろん、日曜日でさえも稼働日として設定されているケースも目立つなど、まさに休日返上で発注者の要望に応えざるを得ず、技能労働者だけでなく施工管理に従事する労働者が長時間労働を余儀なくされる大きな要因となっています。また世界の情勢に合わせて資機材の高騰や納期遅れなどの影響も一因になっています。
過度な工期短縮は、これまで構築してきた安全文化の崩壊を招き、労働災害の増大につながりかねず、さらには労働者の心身の健康をおびやかしています。
建設業の健全な発展と安全・品質管理や労働者の健康管理・衛生管理の観点から、建設業労働者の長すぎる労働時間実態の解消に向け、民間工事においても 4 週 8 休が工期設定時に確保され、着工から竣工までの全工程において確実に実行されることが必要であり、業界挙げて取り組むとともに、法整備の必要性も含めて検討する必要があると考えます。
民間工事では、労働力確保が優先され、概略設計を元に発注されるケースが増加しており、受注後に工事会社が施工図とともに詳細設計を行うケースが少なくありません。契約工期が詳細設計に基づくマスター工程表とそぐわないことも多々あります。
こうした場合、設計変更の対象として工期が変更されるべきでありますが、これまでの慣例も含め工期延長の正当な理由とされることはまれであり、発注者からの強い要請により、工期変更されず土曜・日曜・深夜工事など納期を合わせる傾向も見受けられることから、詳細設計に基づく発注も適正工期の確保のためには重要であると考えます。
元請負人の施工管理が不十分であったなど、下請負人の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず下請工事の工程に遅れや工期不足が生じた場合に、発注者と元請負人の契約上において元請負人に正当な理由がないことから工期延長がされず、下請負人がやむを得ず工期を短縮して施工しなければならないケースが生じています(工期のしわ寄せ)。このような場合であっても、4 週 8 休の確実な確保と詳細設計に基づく発注がなされ、より実態に近いマスター工程表が策定されていれば、このような事態への対応を行う場合にあっても労働者の負担を軽減することが期待できます。
「建設工事標準請負契約約款」では、工事の追加または変更、不可抗力など正当な理由があるときは、受注者は発注者に対して工期の延長を請求することができることになっています。
また、「建設工事標準下請契約約款」では、下請契約における工期は、元請負人が発注者から請け負った全体工期ではなく、下請負人の施工期間を明記することとなっています。
さらには、設計・工期変更を行う際の、費用も含めた契約変更の取り扱いについては「建設業法令遵守ガイドライン」の中で示されています。
しかしながら、発注者と元請負人や元請負人と下請負人の取引関係から、必ずしも全てにおいて遵守されている状況ではなく、法令等の実効性を伴うよう求めていきます。
統計によると建設業における技能労働者の賃金改定に最も大きな影響を与える要素として「経営状況」「公共工事設計労務単価」があげられています。
近年、堅調に推移する官民の建設需要の高まりにより、建設会社の経営状況が好調であることや技能労働者不足への対策として、国土交通省が公共工事設計労務単価を継続して引き上げたことで、技能労働者の支払い賃金は、改善が図られてきました。しかしながら、依然として他産業より基準賃金は低いことが、休日労働により月例賃金を補填するという構図を生み、総実労働時間の押し上げおよび社会保険の未加入を招く要因の一つになっているとの指摘があります。あわせて、海外では、労働者の平均賃金が急上昇している中、日本の平均賃金は物価高騰により実質的な労働単価は低下しており、優秀な人材が海外へ流出してしまう恐れがあります。
また、「下請代金の決定に当たって公共工事設計労務単価を参考資料として取り扱う場合の留意事項」について労働者への支払い賃金を拘束するものではないことは国土交通省から通達されています。しかしながら、実態としては見積労務単価と公共工事設計労務単価の違いを指摘し、契約金額の低減を求める発注者や元請負人が多い状況にあります。
公共工事設計労務単価については、引き続き民間労働者全体の賃金動向や、総実労働時間、最低賃金の改定状況など、各種の社会的水準や未来の日本のものづくりを支える人材への投資を積極的に行えるよう、総合的な観点に基づく設定が必要であると考えます。
建設産業における年間の総実労働時間は全産業に比べて約 2 割長いとの調査結果が出ており、全産業では労働時間が大幅に減少しているにも拘わらず建設業では減少幅が少ないとの報告もあります。また、電気設備工事産業をはじめとする建設業は、発注者の依頼や災害等の発生により休日出勤を余儀なくされることがあります。
将来にわたって持続的に発展し、魅力ある産業をめざすためにも、職場の安全衛生を確保し心身ともに安心した生活を送れるよう、公共工事のみならず民間発注工事を含めた全ての建設工事において、土日にこだわらない休日確保により総実労働時間の短縮を図るため、業界団体等に対し「4 週 8 休プラス 1(ワン)」運動の理解を求めていきます。